初の書き下ろしエッセイ『ろうそくを吹き消す瞬間』を上梓した松井玲奈さん。生活のなかでのふとした瞬間、家族や友人との何気ない会話、俳優・作家として覚悟など、さまざまな幸せを見つめ直した今作への思い、自分のなかをかけめぐるものを文章にする意味――SPRiNG世代である松井さんが、素直な言葉を届けてくれました。
心に留めておきたい、
一瞬のきらめきをタイトルに
──今回の『ろうそくを吹き消す瞬間』は書き下ろしエッセイとなりますが、どういった経緯で書き始めたのでしょうか。
今回の作品は“幸せ”にフォーカスを当てているのですが、SNSで旅行の写真とかをシェアしようと思ったときに、身近な人に「幸せ自慢になってない?」と言われたのが衝撃というか、自分のなかではびっくりするようなことで。でも思えば、幸せなことを人に共有するのって、今はSNSで発信するのが日常になっていますが、昔って家族や友だちと会ったときに個人的にシェアしあっていたことだよなと思ったんです。その気づきがあったときに、今回のエッセイは幸せだったり、目に見えない、形になりづらいような感覚について書いていけたらいいなと思ったのが書き始めたきっかけでした。
──タイトルはどのように決めたのですか?
どんな瞬間が幸せなんだろうと考えたときに、バースデーケーキのろうそくを消す瞬間が、自分自身いちばん幸せを感じるときで、だれかのお誕生日でも、みんなが注目してすごく幸せに包まれている時間だなと思ったんです。でもその瞬間って、その場にいる人たちの目でしか捉えることができないものだからこそ、大切なときなのではないかなと思って。一瞬で消えてしまいそうだけど、でも心のなかに留めておきたいという意味を込めてタイトルを決めました。
──今回だからこそ書けた、特別な一篇を教えてください。
「ろうそくを吹き消す前に」は最後から二番目くらいに書いたエッセイで、『ろうそくを吹き消す瞬間』というタイトルが思い浮かんだからこそ書けましたし、「書いてきたことをすべて集約させたエッセイはこれなのかな」と思えたので、いちばん思い入れがありますね。あと「決意表明」で、私が書いた小説を「これ、別の方が書いたんですよね」と言われたときの話は、書きながらそのときのことを思い出してすごく悔しくなりました。でもその悔しさが、自分がこれからどうなりたいのかという道しるべを作ってくれたのかなとも思うので、“決意表明”としてこれを読んでくれる人たちにも「私はお芝居はずっと続けていきたいですし、書くこともやめたくない」と明言できたというか、「もう言ってしまったからには逃げられない」みたいな。それをはっきり書けたのは、すごく大きい変化だったかなと思います。
文章を書くと思考が巡り、
整っていくのがおもしろい
──考えていることや思い出を文章にすることは、松井さんにとってどんな意味があるのでしょうか。
この言い方があっているかわからないのですが、自分のなかで思考を巡らせていく感覚がいちばん強くて。溜まっているものを文字として出して整えてリセットしていって、それがどんどんどんどん積み重なって、よりキレイにしていったものがエッセイなんです。書いていると大変だけれど調子がいいというか、整うところがあるのが、おもしろいなと思います。作品のなかでも書いているのですが、今はSNSだったり、いろんなところで発信するツールがあるけれど、それってすごく断片的に切り取られた部分だからこそ、より自分のことを正しく知ってもらいたい、伝えたいという思いを込めて書けるのがエッセイなのかなと思っています。
──文章にすることで、当時抱えていた思い出への感情が変化することもありますか?
これまで幼少期についてエッセイにするときは「なんとなく寂しかった」とか「親が忙しかった」という事実は書いていたのですが、さらに深く、昔の自分の感情に向きあって掘り下げてみたことによって「すごく寂しかったんだな」と気づいて。その寂しさがあったからこそ、親に反発したり、いろいろなことを考えたりして今があるんだな、ということも考えましたし、周りに子どもを産む人が増えてきて「子どもがちょっといたずらしちゃって」という話を聞いて、「私もそういうことしたな。でも、なんでしたんだろう? 結局構ってほしかったからだよな」みたいなところに行き着いたのも大きな発見だったのかなと思います。
──「自分を正しく知ってほしい」とおっしゃっていましたが、思惑通りに受け取ってもらえないこともあるかと思います。そういうときは自分の気持ちにどう折りあいをつけるのでしょうか。
「わかってほしい」という気持ちもあるのですが、それはこちら側のエゴなので、伝えきれなかった自分が悪いんだなと思います。「キー!」とはなりますが(笑)、そのあとで、じゃあ何が悪かったのかと考えて。「伝えるうえでこの部分が足りなかったな」とか「こういう段階をしっかり踏んでいけばすべての人に正しく伝わったかもしれない」と反省して、結果、自分が悪いというところに立ち返りますね。今日もきっと、家に帰ったらこの取材をふり返って反省すると思うんです(笑)。
かっこつけないことが
素直な文章の第一歩
──SNSがあることで文章を書く機会が普段の生活でも多くあると思うのですが、SNSでの文章の発信についてはどのように考えていますか?
Instagramは割としっかり文章を書く、Xは感情のままに書くという使いわけを自分のなかではしています。感情のままにというのは「◯◯を見てすごく素敵だった」というものではなくて、「わー!ぎゃー!やったー!うれしい!」みたいな(笑)。もっとインスタントというか、突発的にブワッとわき上がったものを書いています。でも語ればいいことと、語らないからこそ人が自由に想像を膨らましてくれることもあるなと思っているので、最近はそのバランスがすごく難しいなと思います。伝えたい気持ちはあるけれど、でも伝えすぎるのもちょっとかっこ悪いのかもしれないなと思います。
──その使いわけはいつごろからするようになったのでしょうか。
もともとXは自分の好きなように、思うがままに発信をしていたのですが、Instagramは5年ほど前にお友だちに「もっとちゃんとSNSをやらないとダメだよ」とアドバイスしてもらったことがあって。「こういうふうに写真を撮って」「こういうものを載せたりするといいんだよ」と教えてもらったときに、自分にいろいろな面があることを届けられるのも楽しいのかもしれないと思ったんです。
──松井さんのような素直で心地よい文章を書いてみたいという人も多いと思います。どんなことから始めたらいいでしょうか?
そうですね、気取って難しい言葉を使ったりせず、まずは自分が経験してきたことを箇条書きにしたなかから、文章としてつなげていくために必要な言葉だけ付け足していくと、日記がショートエッセイみたいになると思うんです。そこからさらにブラッシュアップしていくと、「もっとこういう話題があったほうがいいかも」と付け足すものが見えてきたりするのではないかなと思うので、かっこつけないことから始めるのがいいのではないかと思います。
今、幸せを感じるのは、
目には見えない感情に
満たされること
──今回のエッセイではおいしい食べもののことやご家族、お友だちからの言葉、お仕事での経験とさまざまな幸せが描かれていましたが、何気ない日常でも幸せを感じられるようになるために普段心がけていることはありますか?
幸せは自分からもたらせるものではなくて、人から与えてもらえるものなのかなと今は思っています。ただ心に余裕がないとそれすらも受け取れず、「心が動かなくて、おもしろくなかった」と思いがちなので、人と会うときも作品に触れるときも、心に少しでも余裕を持たせておくことが大切かなと思います。
──年を経ていくなかで、幸せを感じるものに変化はありますか?
いろいろな価値観が変わっていっていると思うのですが、甘いものを食べているときは昔から変わらずに幸せです。子どものころの写真を見返しても、自分の目の前にケーキが2個あったりするんです。変わったことは、それこそ昔は目に見える結果や変化したこと、手に入れられるものが幸せだと思っていたのですが、今は「人にやさしくしてもらえた」「こういう言葉をかけてもらえた」とか、目には見えない感情的な部分で満たされることを幸せだなと思うようになりました。
──これからエッセイで書いてみたいことや、向きあいたいテーマはありますか?
食べもののことを書くのが永遠に好きなので、これからもずっと書いていたいです(笑)。台湾が大好きで、昔ひとりで台湾に行ってかき氷を食べ歩いていたことがあったのですが、今それをやって旅行記みたいなものを作れたらすごく楽しそうだなと思います。とにかく好きな場所で、好きなものを好きなだけ書き続けたいです。
PROFILE
松井玲奈
まつい・れな 1991年7月27日生まれ、愛知県出身。2019年に短編集『カモフラージュ』で作家デビューし、小説やエッセイを執筆。俳優としても幅広く活動しており、現在ドラマ『夫に間違いありません』(カンテレ・CX系)に出演中。TBS赤坂ACTシアターで上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』ではハーマイオニー・グレンジャー役を務めている。
INFORMATION
『ろうそくを吹き消す瞬間』
(KADOKAWA刊/1,760円)
家族との時間、仕事での葛藤やあこがれの存在、大好きな食べものへの思いなど、自分にとっての幸せに向きあい、誠実でユニークなまなざしで書きつづった初の書き下ろしエッセイ集。
著者:松井玲奈
発売日:2026年1月30日(金)
ダブルリング¥30,800、シングルリング¥14,850(ともにリフレクション/THE PR) その他スタイリスト私物
THE PR ☎03-6803-8313
photographs_ REN FUJISHIGE
styling_ SHOTA FUNAHASHI
hair & make-up_ AYAKA SUGAI
interview_SONOKO TOKAIRIN
※SPRiNG2026年1月掲載の記事です
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