勝地 涼 × 河合優実
- 記憶の探訪 -

R=Ryo Katsuji
Y＝Yuumi Kawai
 

R　自分の中で書き換えている部分もあるんでしょうけど、人からは「なんでそんなことを覚えてるの？」と言われるので、記憶力は結構いいほうですね。人の顔もすぐに覚えられるんですけど、名前を覚えるのは苦手で。特にハリウッド俳優とか、カタカナは覚えられないんです（笑）。
Y　私はものによりますね。学生時代のこととかは忘れているけど、昔行ったお店やごはん屋さんの名前は思い出せたり、文字は結構強いかもです。セリフが覚えられないということもないですね。
R　セリフ覚え、悪いんですよね。もともと子役からやっているから、昔は記録さんから「一語一句間違えない！」と強く言われてきて、蜷川（幸雄）さんもそういう方だったから、どうしてもカチッと覚えたくて時間がかかるんです。宮藤（官九郎）さんに「ふわっとセリフを覚えてきて、言いやすいように変えてくる俳優と、カチッと覚えてくる俳優、どっちが好きですか？」と聞いたことがあって、「僕は覚えてきてくれる人のほうがうれしい」と言われて。「覚えてきたうえで崩していくのはいいけど、そうじゃないと、ただ単に自分がやりやすいような言い方ってことか」と。それでやっぱりちゃんと覚えようと改めて思いました（笑）。
Y　私も自分では変えないですかね。「こっちのほうがいいかな」と思ったら「どうですか？」と聞きます。あと話し始めるときに「いや」とかをつけちゃうのもあんまり好きじゃないです。意図があるならいいけど、基本的にしゃべりやすくしていく方法だから、安易にリアルになっちゃう気がして、できるだけやらないようにはしていますね。
R　すごくわかる。とかいって自分がやっていたらごめんなさい（笑）。ただそれぞれの方法があるから、どれが正しいかはわからないですけどね。

Y　事務所に入る前に自主映画に出たことがあって、スタッフは少人数だったんですけど、それが初めて撮影というものを体験したときだったんです。明け方のシーンを撮ってオールアップとなったときに、仲間たちが機材を持って朝焼けのなかを帰っていくうしろ姿は私の原風景という感じです。「これが映画なんだ～」と感じた記憶があります。
R　朝焼けと聞いて今思い出したのは、舞台『ムサシ』でロンドンとニューヨークで公演したことがあったんですけど、ニューヨークに大竹しのぶさんが観に来てくれたんですよ。公演がすべて終わって、「この大変な作品をもうやらなくていい！」と思いながらみんなで打ち上げをして（笑）、だんだん少人数になって、藤原竜也、鈴木杏、大竹しのぶ、俺だけになって。そのまま興奮が冷めなくて、四人でエチュードみたいなことを始めたんです。
Y　え～！！
R　なんか濃くないっすか（笑）。エチュードみたいなことはあんまりやってきてないけど、しのぶさんは慣れていらっしゃるからいきなり芝居を始めて、竜也くんが返して、杏ちゃんもそれにのっていって。そうしているうちに、暗かったはずのマンハッタンの景色が朝焼けになって感動したのを覚えています。歳もバラバラのみんなが今、ニューヨークにいて舞台をやって、それが楽しくてまだ芝居をやっているって「アホだなぁ」と思って（笑）、それは忘れられないです。エチュードというか“ごっこ”みたいなものでしたけど、みなさん、そのときのこと覚えているのかな～？とたまに思います。
Y　それは遭遇したかった……！
R　全員で笑いましたけどね。朝日が昇るまで芝居をやっているなんて（笑）。

―岩松了作・演出のM&Oplaysプロデュース『私を探さないで』に出演するおふたり。取材時点では脚本は未完成、物語が向かう先は謎に包まれていた。
R　前回出演した『いのち知らず』もそうでしたけど、事前に聞いていた話と全然違ったりもするんです。なので、そんなに考えないようにしています。読まないとわからないですし、読んでもわからないの（笑）。
Y　私も思っているものから変わっていくんだろうなと覚悟はしていて、失踪した役ということしか確定していないと思っているんですけど、登場さえしなかったらどうしようと思っていて（笑）。
R　多分、冒頭に出てくる感じがする。それでそこを何度も稽古するような。小泉（今日子）さんと「冒頭、私じゃないでしょ。勝地じゃない？」「いや、河合さんじゃないですか？」という会話をしたんです。
Y　当たりそうで怖いですね（笑）。

　
―おふたりと小泉今日子さんとの共演も話題だ。
Y　ものすごくうれしいです。以前授賞式でお会いしたときに「一緒にできるのが楽しみ」と言ってくださって。みなさんの胸をお借りして、甘えながらがんばろうと思います。
R　初めての舞台が小泉さんとの共演で、僕が当時の小泉さんの年齢くらいになって再共演できるのがうれしいですし、河合さんとどういうふうに関わっていくのかが僕はすごくワクワクしています。

―取材前、「はじめまして」とあいさつをしていたおふたり。お互いが抱くそれぞれの印象とは？
R 映画『アンダードッグ』で同じ現場を踏んでいたり、独特な空気感を味わっている者同士なので、勝手に親近感があります。
Y 勝地さんは大先輩ですし、何度も舞台を観させてもらっていたので共演できてうれしいです。『高校中パニック！小激突！！』という舞台はDVDを持っています。
R マジで？
Y 人を笑わせるって非常に難しいことですし、いろんな面をお持ちなのがすごいなと。あと岩松さんが、勝地さんについて「（演技が）すごくうまい」と力強くおっしゃっていたのを今思い出しました。
R 岩松さんくらいだよ、そんなこと言ってくれるの。河合さんは、失踪しそうというか……（笑）。もちろん、この仕事を好きでずっと続けるつもりなんでしょうけど、突然「仕事をやめて、来年海外に行きます」と言われても納得してしまいそうな（笑）、不思議な魅力がある方だなと思っています。
Y 岩松さんの作品についてのコメントも言い方は違うけど、失踪しそうということなんだろうなと思っていて（笑）。今までの役柄だったり、自分で意識していないものがそう感じさせているのかなと思いますけど、失踪しないので大丈夫です（笑）。