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――芯のある人。インタビューを重ねるなかで、言葉を丁寧に紡いでいく彼女の誠実な姿に毎度ハッとさせられるときがある。32歳を迎え、大人の女性へと進化し続ける彼女の現在地を、今ここに。
brand #01
JIL SANDER
[ジル サンダー]胸元からの立体的なパターンによって、動くたびに表情を変えるベアドレス。あえてノンアクセで挑み、ポージングをしないことでドレスと有村さんの美しさが共鳴する。
ドレス¥623,700、ブーツ¥228,800(ともにジル サンダー バイ ルーシー アンド ルーク・メイヤー/ジルサンダージャパン)
brand #02
LOEWE
[ロエベ]シックに描かれたハイビスカスがシルクの上で踊るトラペラーズシルエットのシアーシャツ。アシンメトリーなドレープが入ったスラックスにタックインし、日常にドラマティックなムードを。
シャツ¥275,000、トラウザー¥240,900、ローファー¥189,200(すべてロエベ/ロエベ ジャパン クライアントサービス)
brand #03
Chloé
[クロエ]解放感とロマンティックなムードが新鮮な喜びを与えてくれた今季の〈クロエ〉。ローズプリントがあしらわれたシルクシャルムーズのフルイドプリーツパンツに同柄のクロップト丈のトップをあわせて、夏への高揚感を思いっきり表現。
トップ¥149,600、パンツ¥314,600、ピンククオーツネックレス¥121,000、バングル¥143,000、貝殻ネックレス(参考商品)、シューズ¥149,600(参考価格)(すべてクロエ/クロエ カスタマーリレーションズ)
brand #04
FENDI
[フェンディ]きらびやかなビジューや、軽やかなオーガンジー、フェミニティを強調するかのようなスリップドレスの足元には、レッドウィングとコラボレートしたブーツで現代的なギャップが。このバランス感覚がたまらない!
ドレス¥1,001,000(予定価格)、ブーツ¥225,500(ともにフェンディ/フェンディ ジャパン)
COVER INTERVIEW
with
KASUMI ARIMURA
本質的な美しさは、抱えている不安や迷いや弱さ、その揺らぎの中にこそ宿っている
より軽やかさのある春のファッションが心地よい
――冬のムードを一新する、各メゾンを象徴する春の新作に身を包んだ有村架純さん。
「今まで、フェンディを着る機会があまりなくて、イメージではエッジが効いていて、フォーマルさもあって、強い大人の女性に似合う印象がありました。ところが今回のスタイルはシアーな素材と繊細な刺しゅうが折り重なっているデザインの柔らかなドレス。さらりと着られそうという発見もあって、ぜひ他のアイテムも見てみたいなと思いました。ジル サンダーのドレスは、洗練されていて、無駄がない。シンプルな美しさが際立つデザイン。クロエは貝殻モチーフのアクセサリーがついていたり、夏っぽさを感じられる遊び心に満ちた一着。なかなか全身に花柄をまとうことがないのでとても新鮮でした。ロエベは私服でも好きで、普段でも着やすくて親しみのあるブランド。パンツは最近よく目にする特徴的なシルエットとデザインですが、実際に着てみるとどこかしっくりくる感覚もあって、やっぱり好きだなと再確認」
――インタビューは撮影を終えて、私服に着替えたあと。偶然にも有村さんが着ていたのはロエベのデニム。まだまだ寒いけれど、この春は「シャツが着たいです」と即答。
「冬のファッションもかわいいけれど、私としては生地が薄くて、重さを感じない服が好きです。より軽やかさを引き出してくれる春のファッションが今から待ち遠しくて。早く暖かくなればいいなぁと思いながら暮らしています。自分の体型も上半身に厚みがあるタイプなので、なるべく着込まず、体がキレイに見える服を選ぶようにしているんです。今、気になっているアイテムは断然シャツで、買い物に行ってもつい手に取ってしまいます。20代のころは、シャツを着ると逆に子どもっぽく見える感じがして避けていたんですが、30歳を過ぎてみると、顔立ちもまた少し変わってきたせいかシャツがなじむようになったなと感じています。最近は、オーバーサイズのものが多いですが、オーソドックスな白いシャツや透け感のあるチェックシャツも愛用中。シンプルにデニムとあわせることが多いですが、意外とスウェットパンツとの組み合わせも好き。シャツのかっちりしたイメージを逆手に取って、あえてカジュアルに着ることもあります」
不完全な自分と向き合おうとする姿に美しさを感じる
――ファッションは自分をどう見せるか?という意味では、ときに武装であり、演出の側面もある。その一方で本来の人となりを引き出してくれる内面と密接に結びつくものでもある。今回のスタイリングはまさに後者で、瑞々しく、静謐でありながら凛とした、有村さんだけの美しさが垣間見えた。そんな彼女が美しさを見出すものとは?
「ずっと思っていることなのですが、私は“強い人=美しい人”ではないと思うんです。むしろ不安や迷いを抱えながらも、それでも前に進もうとする人にこそ美しさを感じます。自分から目を逸らさずに向き合っているから、不安や迷いは生まれると思っていて、自分の弱さを乗り越えた先にやっと自信がついてくる。人はみんな、少なからず弱さを持っていますよね。自分を信じられるようになるまでの道のりには、いろんな積み重ねがあって、その背景も含めて美しさにつながっているような気がします。年齢によって、見える景色も感じるものも変わっていくので、私自身ももう少し若いころは花や景色の美しさに心を奪われていました。30代になってみると時を経た建築物の造形に興味が出てきて、時代に沿った形状やデザイン、どんな風に建てられているのかといった過程を知ることで美しさがより深まっていきます。そういった楽しみ方ができるようになりましたね。修行や鍛錬の上に成り立っているものが心に響きますし、美しさを感じる共通点かもしれません」
――表層的な美しさではなく見えない部分にそっと眼差しと心を寄せる。その在り方が、有村さんを有村さんたらしめる。彼女自身も人間的な美しさを求める人でもある。
「私は旅好きの友人から刺激を受けることが多いです。友人が旅をしたときに、観光スポットではなく、誰も踏み入ったことのないような場所に行って、現地の方とコミュニケーションを積極的に取っていくんですね。その土地で生活をしている人から、土地の歴史を学んだり、人柄や暮らしをひもといていくような旅を重ねている。その旅の話を聞くのがとにかく大好きで、もっといえば旅を介して友人の生き方に触れるのがすごく楽しいんです。興味や関心が向かうままに進んでいく姿が美しいですし、友人なりに信念を持っているのが伝わるので、『私ももっと外の世界を見てみたい』『人間力を培っていきたい』と刺激をもらいっぱなしです。今って、何でも携帯電話の中で完結してしまうことが多くて、指先を動かしているだけなのに見たり聞いたりしたつもりになってしまう。『これ、ただの手のひらサイズの電子機器やん! 怖い!』とハッとするんです(笑)。自分の知らないものを見せてくれるし、得られるものもたくさんあるけれど、『これじゃアカン』と律して、友人のように自分の体や心を動かしながら体験をすることを忘れないようにしたい。知らない世界を知ることは、心や人生を豊かにすることにもつながっていくはずだから」
――ときに「仕事にがんじがらめになってしまうこともあります」と有村さん。今、心を和らげてくれるものは茶道。
「『日々是好日』というお茶をテーマにしたエッセイと出会ったのをきっかけに茶道を習い始めました。お茶が教えてくれるのは、ついつい忘れがちになってしまうことばかり。姿勢を正すこと、礼儀を尽くすこと……大切な作法や心構えを頭ではなく体で覚えていく。つい先日、久々にお稽古に行くことができて、やっぱり茶道が好きだなと思いました。先生が用意してくださった、掛け軸、お花やお菓子から意味を学び、季節を感じられることがとても有意義です」
家族の温かさをもう一度抱きしめるような作品
――4月25日公開の映画『花まんま』では、両親を早くに亡くし、大阪の下町で兄とふたりきりで暮らす妹・フミ子を演じる。結婚を目前にしながら、兄には伝えていないとある秘密を抱えているという役どころ。
「フミ子を演じるうえでは、関西人特有のちょっと気が強そうに見える部分、関西弁のハッキリとした口調の中ににじむ優しさなど、私の母をはじめ、地元でたくさん触れ合ってきた女性たちをイメージしました。ただ、兄とふたりきりで生きてきて、フミ子なりに寂しさや我慢も抱えて、葛藤も多かったはず。いろんなことを感じながらも表にはいっさい出さない気丈な部分を大切にしながら演じました。兄役の鈴木亮平さんも関西出身なので現場では常に関西弁が飛び交っていて、地元トークをしたりとアットホームな雰囲気。亮平さんは東京で見る姿とはまた違って、とてもナチュラルでリラックスしているように見えました。完成した作品を観ながら、私も自分の家族を思い出すことが多くて、それこそ私には姉がいて、親には言えないけど姉にだけは言えることもたくさんあったなぁって。私、姉の前だけでは“ぐて~”っとしていて、ちゃんと妹なんです(笑)。自分自身の家族と照らし合わせて、懐かしみながら観ることができたし、親元を離れて自立をして、30代になってやっと自分なりにがんばって今日まで生きてこられたんだなと振り返るきっかけにもなりました。家族の温かさをもう一度抱きしめるような気持ちになれる作品になったのかなと思います」
PROFILE
有村架純
ありむら・かすみ 1993年2月13日生まれ。兵庫県出身。近作に、ドラマ『海のはじまり』、配信ドラマ『さよならのつづき』(Netflix)など。今後、4月25日公開の映画『花まんま』、2025年内に『ブラック・ショーマン』がある。
model_KASUMI ARIMURA
photographs_YASUTOMO SAMPEI
styling_AKANE KOIZUMI
hair & make-up_IZUMI OMAGARI[STORM]
interview_HAZUKI NAGAMINE
※SPRiNG2025年5月号掲載の記事を再編集したものです
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